東北新幹線 車いす用スロープ板ごと発車したのは誰が悪かったのか?【ゆっくり運転士の鉄道ニュース】

鉄道ニュース

はじめに

新幹線が発車する際、車椅子スロープと一緒に動き出すトラブルが発生しました。
ネットでは清掃員に対する賞賛がある一方、車掌には乗務するななど厳しい意見が散見されます。
そんな風潮に一言申したいと思います。
駅員から車掌になった私にしか分からない現場の空気感を解説します。
それでは出発進行。

発車しながら声をかけられた車掌は無能だったのか?

ニュースを引用

発車直後の新幹線です。ドアの足元には、車椅子用のスロープ板が…。と、そこに、ホームに立っていた清掃員が足で受け止めました。
スロープ板を付けたまま発車という事態。
起きたのは、東京駅の新幹線ホーム22番線。北海道の新函館北斗駅行の列車でした。
スロープ板があったのは、3号車のドアで、車掌は1号車に乗務していました。なぜ見落としてしまったのでしょうか。
JR東日本によると、現場の22番線ホームは、構造上カーブができているため、車掌の目線からは死角になってしまうそうです。
また、発車合図をする駅員は、スロープ板があった3号車付近にはおらず、確認が難しい環境にあったということです。
さらに、発車直前、まさかの事態が起きていました。スロープ板を置いた係員が乗ったまま新幹線が発車してしまったのです。
JR東日本によると、係員が車椅子の乗客を新幹線の中へとサポートし、降りようとしましたが、次々に乗客が乗り込み、降りることができず、そのまま発車してしまったということです。
係員はその後、東京駅から隣の上野駅で降りたといいます。
スロープ板を足で止め、最悪の事態は免れましたが、これについて、JR東日本の広報は…。
JR東日本・広報:「とっさの判断もあったと思う。結果としてけが人もいないし、列車の遅れも発生していないし、そういう意味では良かったと思うが、緊急停止させなかったという点では適切な対応ではなかった」

テレ朝ニュース

なんの問題もなかったのに…

動画を確認すると、清掃員さんが足で車椅子スロープを押さえて電車から取り外し、発車していく車掌に対してこれついてたと言ってるように思われます。
色々ご批判はあると思いますが、正直車椅子スロープが電車から取れた時点で普通はそれで話しは丸く収まっていました。
で、丸く収まっているので特にお咎めもなく後は忘れてしまうような出来事です。
ただ今回話しをややこしくしたのは動画に撮られて拡散され、ニュースにもなったことで会社に問い合わせを受けることになったので、関係者全員に事情聴取が行われることになります。
こうなると誰が悪いなど責任問題になってきます。
今回のトラブルは清掃員、車掌、駅員が関係し、それぞれの立場で色々な事情を絡み合うので1つずつ紐解いていきましょう。

清掃員の事情

さて今回1番のファインプレーで賞賛の声が大きい清掃員さんですが、本来のルール的にはこの人がホームの非常停止ボタンを押さなければなりません。
たまたま上手く足でスロープを外すことが出来ましたが、上手く出来なければ自身が転倒して労災が発生していた可能性は十分にありました。
なのでまずは電車を止めてからスロープを外すのがセオリーになります。
とは言ってもこの方は清掃員なので、どんな時に電車を止めるべきかなどの教育は受けていなかったのではないかと推察されるので、そこをとやかく言うのは気の毒のような気がします。
まぁ私が同じ立場だったとしても、非常停止ボタンを押す前にワンちゃんスロープが取れないか、手か足で外しにいってから無理なら非常停止ボタンを押すなり、車掌に赤旗を振るなどして電車を止める手配をしていたと思います。

本当は足で外す前に非常停止ボタンを押す必要がありました

車掌の事情

今回のトラブルで1番非難の声が大きい車掌です。
電車のドアを閉めるときの安全確認と、発車時の安全確認は車掌の責任です。
駅によっては、ホームに駅員が立って車掌に対して乗降終了合図を出したり、閉扉完了合図を出す場合もあります。
この場合、車掌と駅員がそれぞれどの範囲を確認するのかは、その駅・会社ごとによって様々です。
例えば、10両編成の電車で駅員は1~5号車、車掌は6~10号車を安全確認するみたいに決められています。
とは言っても、6号車で荷物挟まりなどのトラブルがあった場合、駅員が自分の持ち場じゃないと何もしないことはありませんし、車掌も3号車の状況を確認しないままドアを閉めるようなことはありません。
仕事をするにあたってお互いにその仕事ぶりを信用しつつ、自分も確認するといった考え方で仕事をするようにしています。
さて今回のトラブルがあった東京駅22番線ですが、車掌の位置からだとホームが外カーブしています。

東京駅22番線 車掌目線

3号車の位置に車椅子スロープが残されていたので、車掌の位置からは50mほど前の位置になります。
ただ経験上この手の外カーブの駅で車掌スイッチを操作する位置から前を見た場合、見える範囲は1両分のみです。

外カーブの車掌目線はこんな感じ

つまり1号車は確認することが出来ますが、2号車より前を見ようとするとモニターを見たり、車掌が大きく外に出て前方の安全を確認する必要があります。
ところが新幹線の車掌がドアを閉める場合、車掌室から外に出ることは無かったと記憶しています。
22番線にはモニターは無く、車掌も電車に乗ったまま安全確認をするので、車掌はほとんど前が見えずホームの安全は駅員に一任することになります。
なのでこの車掌はスロープがあることに気付かずドアを閉め、そのまま発車。
途中で清掃員さんにスロープが付いてたと言われたときに初めてそのことに気付くチャンスがありました。
そしてここから電車を止めるべきか否かですが、清掃員さんからの声掛けでスロープが付いたまま発車したことをちゃんと認識できたのかと言われれば、それは難しいのではないかと思います。
これも経験上の話になりますが、発車しながら声をかけられたところで一瞬で全てを理解するのは難しいです。
喋りかけられることを想定していればまだ何とかなりますが、今回みたいに不意に声をかけられたらほぼ無理です。
これついたままって言われれば、なんか発車際に残ってて取ってくれたんかなぁと思い、まさか引きづっていたなんて分からないですし、今電車の運転を支障するようなものが無ければ、そのまま運転しても良いと考えるでしょう。
私がこの立場なら、なんかスロープが付いてたみたいに言われたけど取ってくれたみたいやし、なんかようわからんけど上手く処理してくれてありがとうとお礼だけ言っとこうかと思うことでしょう。

駅員の事情

さて今回のトラブルでは2人の駅員がキーポイントになります。
1人は車内にお客さんを案内した駅員、もう1人はホームで列車監視を行う駅員です。
車椅子スロープを使用して車椅子の方を車内に案内する場合、放送をして車掌に共有したり、トランシーバーや直接喋りに行って、列車監視を行う駅員に連絡して、今から車内に入る旨を連絡をします。
最近は放送をするのはダメだという風潮があるので控えられたりしますが、ホームに列車監視の駅員がいるならその人に知らせるのは最低限必要です。
連絡さえしておけば列車監視を行う駅員が発車を見合わせる合図を行うことが出来ます。
前運用を調べると発車の16分前に電車がホームに到着して、お客さんが降車、車内清掃を行って、折返しはやぶさ25号として発車するので、お客さんが乗り込む時間は3、4分程度しかありません。
そして今回お客さんを案内していたのが、3号車みたいでした。
参考として、E5系の車椅子専用席は5と9号車にあり、3号車は車椅子専用席はない車両になります。

車椅子スペースがない車両への案内は時間がかかります

車椅子専用席がない車両に車椅子のお客さんを案内することはその車両を希望されたりして多々ありますが、その場合ドアが狭い、通路が狭いなどして案内に時間がかかってしまいます。
そして車椅子の方が普通の座席に移動して、空いた車椅子を車端部などの置ける位置に移動するなどのサポートもさせて頂くので、余計に時間がかかります。
電車に乗って貰ったらスロープを取ってから、車内に案内しないのと思われるかもしれませんが、スロープを残したまま案内することは多々あります。
と言うのも狭い車内に持ち込むと他のお客さんにあたってしまう場合もあります。
あとは以前の別動画で、車内にお客さんを案内したとき電車内に取り残されないようにスロープを付けたままにすると解説しました。

車内に取り残されない様にあえてスロープを残します

私の経験上、このスロープはドアのドアレールに引っかけているのでドアが閉まらなかったのですが、新幹線では関係なく閉まっちゃうのですね。
もしかしたらプラグドアなのでその辺が関係しているかも知れません。
で、案の定車内には案内役の駅員が取り残されて隣の上野駅まで強制送還されたみたいです。
次の駅がすぐで良かったですが、何時間も止まらないってなると駅員も冷や汗ものでしょう。
今回のトラブルの1番の肝は、案内の駅員と列車監視の駅員が連携出来ていなかったことです。
列車監視の駅員は車掌に対して、ホームの安全を確認し乗降終了合図と閉扉完了合図を送っています。
もしこの時、案内役の駅員から案内しますと連絡を受けていれば、乗降終了合図を出さないでしょうし、案内が終わったか分からなければ自分で見に行くなり何なりと確認する方法はありました。
ところが案内していたことを知らなかったのでしょう、合図を送るいずれの時にもスロープの存在に気付くことが出来ませんでした。
列車監視中はお客さんの挟まり等が無いかなどお客さんの動向をメインに監視してしまうので、足元の小さなスロープが見えなかったは十分に考えられます。
そして立番位置は6号車付近にあるので、現場から80mほど離れていた点も考慮する必要があります。
ここまで擁護する感じで書きましたが、東京駅はホーム柵も無いのですし、しかも黄色い線から出ている人も厳しく取り締まっているのでホームの見通しはよく、確認はしやすいホームにはなります。

東京駅22番線 駅員目線

結局悪いのは?

近くても物理的に見えない車掌と、遠くても見えていたであろう駅員。
どっちの責任になるのかは難しい所ですが、今回のトラブルの責任は列車監視の駅員でしょう。
なんで見ていなかったのかと責められてもおかしくはありません。
ただ電車を最終的に動かす、止めるといった判断は車掌の責任になってしまうので、車掌がある程度責められるのは貰い事故感がありますが致しかたがありません。
そもそも最初にお客さんを案内しますと連絡さえしていれば防げていたトラブルなので、色々な気配りが抜けてしまった結果起こってしまったと言っても過言ではありません。
そしてこのようなトラブルは大体の場合、内々で上手い事処理される事案になりますが、ネットに拡散、ニュースに取り上げられることになり大事になってしまったトラブルでした。
このようなトラブルが重なればいずれ大きな事故に繋がる危険性は十分に考えられるので、どのように改善するべきなのか対策が急務でしょうね。

東京駅22番線 車掌/駅員目線

裏話

車椅子の方を案内していて車内に取り残されるは初めて知りましたね。
新幹線の車椅子スロープがどんなものなのか知らないんですけど、ドアが閉まっているのにスロープがどんな感じで引っ掛かっていたのかは疑問ですね。
あの時清掃員さんが取ってくれていないと、ホーム上のお客さんをなぎ倒していたかもしれないのでガチでファインプレーでした。
それにしても車内に取り残された駅員は次が上野で良かったですね。
次が大宮とかになったら車掌室に行って携帯を借りて駅に電話しないといけなくなりますからねww

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