東海道線異線進入 現役運転士が考察する【ゆっくり運転士のひとりごと】

ひとりごと

はじめに

東海道線で発生した異線侵入。
誰が悪くなってしまうのか?
現役運転士が解説します。
それでは出発進行。

状況を整理

国府津発高崎行き普通電車が大船駅に接近。

大船駅に電車が接近

大船駅の手前には、東海道線と貨物線に分岐する転てつ器があります。

転てつ器をまっすぐ進んで大船駅に到着する予定が…

所定ではそのまま東海道線側へ走行する電車ですが、転てつ器は貨物線側へ分岐しておりこの電車はそのまま貨物線へ転線。
運転士が異なる線路に入ったことに気付いて電車を停止させ、指令にお伺いをたてるも後退できず横須賀線経由で運転しました。

貨物線に転線してしまったことに気付いたが時すでに遅し…

信号を出したのは?

転てつ器が貨物線側へ転換していて信号が出ていたと言うことなので、誰かが電車にその線路を走っていいよと指示を出したことになります。
皆さんはテコ屋さんという言葉を聞いたことが無いですかね?
テコ屋さんは信号や転てつ器を遠隔で操作する鉄道員です。
こんな台の前に座って、テコとボタンを操作することで、転てつ器を切替えそして電車に対して進んでいいよと信号を切替える仕事をしています。

テコとボタンを操作して進路を構築します

とは言ってもこんなことをしているのは一部の駅を除いて過去のお話。
今の時代は運転指令が事前に電車のダイヤ情報をパソコンに入力して、あとは転てつ器と信号機を自動制御しています。
予定していた東海道線側ではなく貨物線側に誤って転てつ器を切替え、信号を出してしまったのはここでミスがあったと考えられます。
てこ屋が誤って貨物線側にテコ操作を行った、指令がダイヤ情報の入力を間違っていた。
いずれにしても人為的ミスが発生しています。
ヒューマンエラーをするとは何事だとお叱りもあろうとは思いますが、誤った方向に進路を開通させてしまうのは正直あるあるです。
特にダイヤ乱れ時などは焦って作業をすることになるので何十本、何百本と電車を捌いていると起こりがちなミスになります。
今回はこの電車の前を臨時列車が走っていたとの情報もあるので、普段と違うことがあってミスが起こってしまったんだろうなぁと考えてしまいますね。
ただてこ屋・指令が誤った進路を構築してしまったとしても残念ながら責任は運転士が背負うことになります。

結局は運転士

信号を一基・一基確認しながら電車を運転する。
運転士の仕事で最も大事なことであるといっても過言ではありません。
今回のトラブルが起こった、東海道線と貨物線の分岐点。
東海道線は直進、貨物線は左に分岐する線路になっています。

まっすぐが東海道線、左折すれば貨物線

線路が2つ以上に分岐する場合、その分岐の手前にはそれぞれ信号機が設けられています。
今回で言うと東海道線へ向かう用の信号と貨物線へ向かう用の信号があります
本来であれば東海道線用の信号に赤色以外の信号が現示され、貨物線用の信号には赤色が現示されます。

東海道線用と貨物線用の信号機がそれぞれあります

ところが今回、東海道線用の信号には赤色が、貨物線用には赤色以外の信号が現示されていました。
本来であれば、誤って貨物線側の信号が出ているなと気付いた時には、分岐の信号の手前で停止して指令に報告することになります。

貨物線への信号が出ているとなればその手前で一旦停止

指令報告すれば、電車が分岐の信号機の手前に停止していて転てつ器上に電車がいないことを確認して、転てつ器を正しい方向に向けるように操作してくれます。
そうすることで東海道線側の信号が出ることになるので、予定していた線路を走行することが出来ます。

東海道線側に進路を取り直して貰いましょう

なので運転士は分岐の手前の信号機が自分の進行したい方向に現示されていることを確認することが大切です。
とはいっても、高速で走っている電車が間違った方向に信号が現示されていると思ってブレーキをかけたとしても、その信号機までに止まることは難しいときがあります。
その為、分岐の信号機の1つ手前の信号機には進路予告機というものが設置されています。
信号機の下に丸い2つの白色灯が横に並べられていて、直進方向に進むときは2つが点灯。
左側に分岐するときは左側が点灯。右側に分岐するときは右側がそれぞれ点灯します。

左側のみ点灯しているので左側の線路に進行します

この進路予告機が本来は直進する東海道線側の信号が現示してますよと2つ点灯しないと行けない所が、左側に分岐する貨物線側の信号が現示してますよと左側の1つしか点灯していなかったと推察されます。
運転士はこの進路予告機に間違った進路が開通していると確認したとき、前述の通り分岐の信号機の手前で電車を停止させる必要があります。
このように運転士は自身が運転する電車が正しいルートで運転できるのかを確認する必要があり、予定と異なる線路に進入した場合信号をちゃんと見てたんかとその責任を問われることになります。

進路予告機を確認して止まっていれば…

さてこの貨物線への異線進入の一件。
多数のメディアで報道され多くの人から色々なコメントがありました。
その中でちょっと思ったことがあるので解説しておきます。

コメントより

Q.貨物列車が来ていたら列車衝突事故が発生したのではないのか
A.誤って東海道線から貨物線への進路を開通していただけであって、信号・転てつ器は正常に動作していました。
なのでもし接近する貨物列車があったとしても貨物列車には停止信号が現示されるので衝突事故は考えにくいです。

Q.重大インシデントや!!
A.今回のような異線進入はたまに起こります。
直近ではJR西日本のおおさか東線の電車が誤って貨物線に進入しましたが、インシデントにはなりませんでした。

間違った線路に入りましたが、信号・転てつ器は正常に動作しています。
事故が発生する恐れがある事態がインシデントになるので今回はちょっと考えにくいです。

意外な心配…

今回の異線進入のトラブル。
個人的に一番大丈夫だったのか不安なのが転てつ器の通過速度が何キロだったのかです。
貨物線へは左側に分岐しています。
転てつ器を渡る際、直進方向には速度制限がないことが多いですが、分岐する場合は速度制限が設けられています
どれぐらいの速度で通過しないといけないのかは転てつ器ごとに異なるのでなんとも言えませんが、運転士が直進するやろうと思っていたのなら速度制限を超えて転てつ器を走行していたのかもしれません。
多少の速度超過ならすぐに脱線することは考えにくいですが、まぁまぁの速度で行ったらガチで危ないです。
とは言っても分岐の信号が注意信号である程度速度が抑えられていたかもしれませんし、ATSなどで分岐に対する速度制限がかけられていたのかもしれません。
そのあたりのことは報道で何もなかったので何とも言えないですね。
今回の東海道線の異線進入トラブル。
ミスをしたのはてこ屋か指令でしょうが、ミスに気付いて対処できるのは信号を確認して運転する運転士になります。
貰い事故感がありますが、トラブルを防ぐ最後の砦は運転士であることを自覚しないといけないですね。

コメント

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