おっ!!同期おるやんww→衝突→脱線→接触 JR九州直方駅構内 鉄道物損事故【ゆっくり運転士の鉄道事故】

事故・インシデント

はじめに

2017年9月18日、JR九州の筑豊線直方駅発、若松駅行き2両編成の上り電第6620M列車の運転士は、直方駅構内の東引上げ1番線への入換えを開始した。
列車は東引上げ1番線に入換え中、誤って線路終端部に設置された車止めに衝突、その衝撃により先頭車両の前台車全2軸が右側に脱線して、上り本線を支障した。
直後、隣の線路を走行してきた下り回送気第1533D列車が通過し、双方の車両が接触し損傷が生じた。
今回はなぜこんなことが起こったのか?
鉄道事故調査報告書より解説します。
それでは出発進行。

事故状況

上り電第6620M担当運転士は、直方運輸センターで4時40分ごろに出勤点呼を受け、担当列車を出区させるため25番線に向かった。

運転士は出勤後、担当列車に向かう

出区点検は異状なく終了し、5時15分ごろ25番線の入換信号機の進行信号が現示されたことと、進路表示機に進路が15番線であることを示す「15」が表示されたことを確認して列車を発車させた。
運転士は20km/hぐらいまで加速させてその後15番線の停止位置で一旦停車させた。

25番線から15番線へ移動

その後、15番線の入換信号機の進行信号が現示されたことと、進路表示機に進路が引上げ1番であることを示す「E」が表示されたことを確認して再度発車させた。
このときも運転士は20km/hぐらいまで加速して力行ノッチをオフにした。
運転士は引上げ1番に向かって進行中、進路の左斜め前方にある27番線で別の列車が出区点検を行っている様子が目に入った。

15番線から引上げ1番線へ移動中、左側の車両が目に入る…

車内照明が点灯されていたことから出区点検を行っている運転士が、宿泊所で前夜の就寝前に会話をした同期生だと気付き、「彼はこの列車の担当なんだ」と思いながら、分岐器を何箇所か通過していった。
この時運転士は、同期の運転士が担当する列車が進行する予定の27番線から東引上げ2番線への入換えルートに視線と意識が向いた。

同期の電車の進路は…

引上げ2番に進入するためには踏切道を通過することになるにもかかわらず、踏切道の警報機と遮断機が動作していないことに気付き不審に思った。
ほぼ同時に自身の担当列車が進行する引上げ1番の線路終端部の先に建植されている車止標識が目に入り、急いで非常ブレーキを使用したが車止めに衝突して停止した。

気が付いたら目の前に車止めが…そして間に合わず衝突

この時運転士は、衝撃に備えて身構えていたこともあり大きな衝撃は感じず、隣接線路を支障しているという認識もなかった。
運転士はこのことを誰かに伝えなければいけないと考え、目の前にあった業務用携帯電話を使用して、運輸センター助役に電話をかけ車止めに衝突したことを報告したところ、信号担当者と指令員に報告するよう指示を受けた。
運転士は再び業務用携帯電話で信号担当者に報告を行ったところ、隣接線路の支障の有無について報告を求められたが、周りは暗くて状況が把握できず「分からない」と回答した。
この時、信号担当者は運転士から隣接線路を支障しているとの明確な回答はなく、支障がないものと認識した。
そして運転士は、列車無線を使用して指令員に報告を行い、指令員から脱線状況を確認し報告するよう指示を受けた。
この時、信号担当者は運転士が列車無線で指令員を呼び出した様子が聞こえたが、交信内容は信号所の無線機の機構上聞き取ることができなかった。
事故列車が車止めに衝突した頃、直方駅8番線ホームから上り電第6520H列車が、14番線から下り回送充当車両となる回1533D列車が引上げ2番に向けてそれぞれ発車した。

事故発生とほぼ同時刻に2本の列車が発車


上り列車の運転士はこの時点では事故発生についての情報を得ておらず「引上げ1番に入換車両があるな」と認識しただけで、特に進路に異状を感じることなく進路の左側に隣接する事故現場付近を33km/hで通過した。

上り列車が事故列車を左側に見ながら異常なく通過

回送列車の運転士は、進路の右側に隣接する引上げ1番に事故車両が見えて「2両編成なのに随分と奥まで入っているな、誤って5両の停止位置まで入ったのかな」と思いながら進行した。

回送列車が事故列車を右側に見ながら異常なく通過

回送列車の運転士は引上げ2番の所定停止位置で停車後、折り返し運転のために運転室を替えて列車無線のチャンネル設定をしたところ、何か交信をしている様子が聞こえたがすぐに入換信号機に進行信号が現示されたので直方駅7番線ホームに向けて発車した。

回送列車は引上げ2番線に到着後折り返す

この時回送列車の運転士は事故車両の様子を見ていこうと思い、速度を抑えて事故車両の先頭部付近を通過したが前部標識灯が点灯したままになっており、まぶしかったので事故車両の状態は確認できず、進路に異状を感じるようなこともなかった。
事故車両の運転士は指令員から脱線状況を確認し報告するよう指示を受けた後、状況を確認するために非常用の懐中電灯を取り出そうと運転室でしゃがみ込んでいた際に、背後で車両が通過していく音と「パン」という音が聞こえ、その後も3回ほど「パン」という音が聞こえた。

渡り線を渡り、回送列車が事故列車を右側に見ながら通過すると異音が…

何の音であったかは不明であったが、事故車両の運転士は隣接線路を支障しているかもしれないと思い、信号担当者に上り本線を車両が通過した際に異音がしたことを報告した。
そして事故車両の運転士は車両の床下を点検して、先頭車両の前台車全2軸が脱線していることを確認し、その状況を指令員に報告した。
回送列車の運転士が入換えを継続していると、列車無線から「車止めに衝突して脱線した」、その後に「車両が通過した際に異音を感知した」という交信内容が聞こえた。
回送列車の運転士は異音を感知していなかったが、念のために7番線ホームの所定停止位置に停車後、行き先表示板の整備作業を終えた担当者と協力して車両を点検したところ、進行方向右側面に装備されている車側表示灯のレンズが4両とも破損していることを発見した。

事故分析

事故を分析します。
事故の発生前の行動として運転士は近くに同期がいたことに意識を向けたとありました。
運転中に何よそ見してるんだ、けしからんと思われるかも知れません。
まぁ確かにそう言われたらそうなのですが、人間なのでずっと意識を運転に集中させることは正直不可能です。
あと運転士の同期って皆さんが思われている以上に意識する存在になります。
なんでかと問われれば答えるのが難しいのですが、駅同期、車掌同期と比べて圧倒的に絆を感じる存在です。
なのでお互いがすれ違ったりすれば必ず挨拶をしますし、どこにいるのかなぁと探してしまう存在でもあります。
この運転士の気持ちはとても分かりますが、さすがに意識を他に向けすぎている感じはしますね。
そしてこの後、事故が発生したにも関わらずなぜ事故現場に電車が侵入しているんだと疑問に思われるかも知れません。
事故車両の運転士が信号担当者と指令員に事故発生を連絡した後、信号担当者と指令員はそれぞれ付近の電車の抑止手配を行いました。
しかしながら運転士が各所に連絡している時間、および抑止手配をかける時間。
この時間に各電車が発車
をしていました。
事故の発生推定時刻は5時18分頃。
上り列車と回送列車はそれぞれ19分に発車しているので抑止手配が始まる前に電車が動き出していることが推察されます。
JR九州では事故発生後の取扱いとして併発事故の防止、旅客の誘導案内、そして指令への報告となっています。
運転士は事故発生後、指令員などに事故発生の連絡をしましたが、この前に防護無線を発報するなどして併発事故の防止を行わなければなりませんでしたが、行ってはいませんでした。
時刻的には日の出時間前なのであたりは暗かったであろうと推察され、列車が脱線していることに気付きにくかったであろうと思われます。
さらに上り列車と回送列車がすぐ横を通過しているわけですが、明らかに車両が脱線していればいずれかの運転士が気付くでしょうが、それが無かったことを考えると直ぐに気付けるような規模感の脱線ではなかったと考えられます。
それでも車止めに衝突したならすぐに防護無線を発報すべきだとの考えもあろうと思います。
確かに冷静に考えればそうでしょう。
ただ事故を起こしてしまったという動揺した心理状況の中、防護無線を発報し忘れたり、それよりも指令報告を優先してしまうはかなりのあるあるです。
実際問題指令から防護無線を発報しましたかとの確認を受け、防護無線を発報するような状況もよくあります。
そして運転士心理として防護無線を押すというのはちょっとした抵抗感もあります。
明らかな危険が目の前にあればいざ知れず、押すべきか否か判断が分かれる場合があります。
そういったときには一旦状況を見極めようとか、指令に連絡して指示を受けようと言った考えが先行し、最初の時点で防護無線の発報をためらってしまうこともあります
ただ今回の事故は運転士が脱線していたことを認識していなかったので、防護無線を発報するなどの列車防護を行えなかったとの口述がありましたね。
まぁこれがあとから事情聴取されたときの話しなので、実際の現場で何を考えていたのかは闇の中ですけどね…
さて最後の疑問として上り列車が通過したときには接触しなかったのに、下り回送列車が通過したときには接触してしまった。
なぜなのかと思われるかもしれません。
上り列車と下り回送列車。
それぞれの車両のサイズを確認すると、下り回送列車が上り列車と比べて最大幅が少し大きくなっています
さらに事故現場付近はカーブしており、下り回送列車が上り列車と比べて全長が少し長く台車間の中心距離が長い為、曲線通過時に曲線外側に振られてしまうことの悪条件が重なって接触してしまったことが考えられます。
今回の事故までの過程、そして事故後の対応を考えてみると、運転士としてやってしまいそうな動きやなぁ~って感じですね…
そこに運悪く直ぐに列車が来てしまったのが不幸な点ですね…
それでは再発防止対策について確認しましょう。

再発防止対策

この事故を受けてのハード面の再発防止対策をピックアップします。


1、線路終端部方向へ運転する箇所について、最終の分岐器付近又はホーム端付近から15km/h以下の速度制限を行うこととし、最終の分岐器付近のまくらぎに黄色の塗色を施すとともに、直方車両センター構内の東引上げ線については、制限速度を示す表示板を設置した。
2、本線に隣接する側線の線路終端部30箇所を選定して、速度照査地上子及び絶対停止地上子を設置し、そのうち5箇所には特殊信号等を設置することとした。


後はソフト面で、運転士に対して列車防護に対する再教育等が行われました。
正直な話、運転士に対して基本動作の再指導を行ったところで、事故を防げるかと言われればそれは無理な話です。
再指導で勉強して事故を防ごうとする運転士もいれば、当然逆もいます。
さらに人間が作業する中でどうしてもミスは発生します。
今回の再発防止対策では線路終端部に絶対停止地上子を設置したことが1番の対策になります。
今回のように運転士がブレーキ開始時期を遅れたとしても、絶対停止地上子の上を通過すればその時点で非常ブレーキなどのブレーキを自動でかけることになるので、車止めまでに電車を止めることが出来ます。
車止めに衝突することを回避すれば脱線事故の発生を防ぐことができ、今回のような事故の発生を防止することが出来るでしょう。
今回は幸いにもお客さんが乗っていない入換え電車だったので怪我人がいませんでしたが、お客さんが乗っていれば衝突の衝撃で多数の怪我人が出ていたことが推察されます。
入換え線だけでなく櫛形ホームなど、車止めがあるような線路には注意して、万が一衝突をした場合、電車が脱線している前提で処理を始めないといけないことを学習できました。

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